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  媛媛講故事―22

                                 
八仙人の伝節 Ⅱ             何媛媛

 

 呂洞賓は目覚めてみれば束の間の、自分の未来を予見するような夢を見たことで、人の世で立身出世する虚しさを悟り、雲房先生の誘いに応えて仙人になるための修行の道を歩こうと心を決めましたが、雲房先生は修行に先立って呂洞賓の心を鍛えようと試練を課しました。

 或る年の元日、一人の乞食が玄関のところでお布施を求めました。呂洞賓は全てのお金や食べ物などを与えましたが、乞食は満足せず汚い言葉で呂洞賓をどなりちらし始めました。しかし、呂洞賓は意に介さず笑顔で対応していると乞食はやにわに刀を取り出して呂洞賓の胸を刺そうとしました。呂洞賓は上着を開き、「どうぞ、刺してください」と言うと、乞食は突然からからと笑ってどこかへ行ってしまいました。

 或る時、呂洞賓は山に羊を放して番をしていると、一匹の大きな虎が現れ、羊に襲いかかって来ました。しかし呂洞賓は全く恐れず虎の前に立ちはだかってすばやく羊を自分の後ろに隠しました。虎は呂洞賓を睨み据えました。しかし、呂洞賓は虎の前に立ちはだかったまま動じません。虎はしばらくすると立ち去って行きました。

 また或る夜、呂洞賓が書斎で本を読んでいると、大変美しい女性が入ってきました。その女性は呂洞賓を誘惑しようといろいろ試みましたが呂洞賓は一心不乱本を読み続け、女性の姿は目に入らないようでした。

 更に或る時は呂洞賓の家に泥棒が入り何もかも盗まれてしまい、苦しい生活を強いられていました。そんな折、呂洞賓が畑を耕していると、鋤が、埋蔵されていた沢山のお金を掘り当てました。しかし、呂洞賓はお金には目もくれずそのまま金を埋めてしまいました。

 このようにして、雲房先生は十回の試練を次々に課して呂洞賓の心を試し、呂洞賓は全てに合格し、弟子として認められることになりました。実は、雲房先生というのは、これから紹介する八仙の中のもう一人の人物である漢鐘離だと言われています。


 さて話は変わってその後の言い伝えです。

山西省の南に、極彩色の古い壁画で有名な「永楽宫」があります。この「永楽宫」が造られた当初、工事に使う水は、2キロも離れた黄河まで汲みに行かなければならなかったそうです。その頃、不幸にも疫病が流行っていて労働力が不足し、工事の進行は思うように捗りませんでした。

 そのような折、人々は近くの村で泉が湧きその泉の水を飲めば疫病を治す事ができることを伝え聞いてその泉の水を汲みに行きました。ところがこの泉の水を独り占めにしている‘業突く張り’な人間がいて、泉の水を汲むには多額のお金をこの人間に払わなければなりませんでした。

 貧しい人々は泉を目の前にしてもその泉の水を汲むことができず、ただ嘆くばかりでした。と或る日、ぼろぼろの、汚れた衣服を纏った乞食のような老人が現れ、

 「水を少し分けてください」

 とその欲張りに頼みました。しかし、彼は、

 「だめだ。水が欲しければ金を寄こせ!」

 と横暴に言い捨てるとどこかに行ってしまいました。

 老人は彼が去って行く姿を見ながら眉をしかめ、頭を横に振りながら腰をかがめて手に持っていた缶で泉の水をなみなみと汲むと東の方へ立ち去って行ってしまいました。

 老人が去って間もなく、泉から「ごんー」という音が響くと、白い煙が舞い上がり泉の水は見る見るうちに枯れてしまいました。
 その‘欲張り’が慌てて泉に駆けつけてみると泉の水はすっかり枯れてしまっており、びっくり仰天しことばを発することさえもできませんでした。

 見れば近くの壁に「民の病を治してあげなさい、金を貪って人を苦しめてはいけない、今日は泉水を缶一杯借りたが、永楽鎮で又会おうではないか」【劝君要为民治病,莫可贪财把人坑,吾今借罐泉水用,永乐镇上再相逢。】という詩が残されていました。

 それでは「あの乞食めの仕業だ」と気が付いた‘欲張り’はすぐ馬に跨ると老人を追いかけ永楽鎮に向かいました。間もなく悠々と歩いている老人の姿が見えてきました。しかし悪人は馬に乗っているというのにどうしても歩いている老人に追いつくことができません。大変長い時間頑張って、どうにかやっと老人のすぐ後ろに来ました。

 すると、老人が手に持っていた缶は「ポトン」と地面に落ち、缶の中の泉の水はこぼれて、渓流になり永楽鎮の方へ向って流れていきました。怒りで頭の中が真っ白になった悪人は乱暴に老人の腕を捕まえようとしましたが、老人は白い雲に乗ってふわふわと地面を離れ、徐徐に空へと浮んで行き、「わしは呂仙じゃ」と高らかに笑う声が空から響いてきました。

 「呂仙人だったのか!」
 この声を聞いて魂が飛び散るほどに驚いたその‘欲張り’は全てを悟り、慌てて膝を地にひれ伏すと、

 「呂仙様!これからは人の為にならないことは絶対しません!これまでのことはどうぞ許してください」

 と頭を地面に打ち付けて詫びました。

 そして,缶が落ちたところから泉の水が湧き出るようになり、絶え間なく永楽宫へと流れが続くようになりました。その後、人々の生活用の水も永楽宫建設用の水も遠いところまで汲みに行かないですむようになりました。人々は、綺麗な水を使うことができるようになると、疫病に罹ることもなくなり、永楽宫は短い期間で建設できたということです。 (続く)


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